2012年10月10日

スペル

drag_me_to_hell.jpg


スペル

監督 : サム・ライミ
出演 : アリソン・ローマン  ジャスティン・ロング  ローナ・レイヴァー  ディリープ・ラオ  レジー・リー

99分


Huluにて視聴。


もちろん、サム・ライミ監督でなければこんなのは観ない。

てかまあ、秋になりましたので、僕にとってホラーの季節となったわけです。
日本だとどうしても「ホラーは夏」という傾向なのだろうけど、僕にとってのホラー期は秋。
秋の夜長はホラーでございますわよ。

ということで、ここ連休でちまちま眺めたホラー日記が続くと思います。といってもまあ、やはりHuluなんですがね。


原題は「Drag Me to Hell」。

"私を地獄へ連れてって"....ってな具合でしょうか。まあそんなニュアンスではないでしょうけどね。

始まってすぐ、プロダクションのクレジットやタイトルバックからして、


あの頃のサム・ライミが帰ってきた!!


という戦慄を覚えます。

ghost_house.jpg


drag_me_to_hell.jpg


なにしろ撮影も「死霊のはらわたII」のピーター・デミングですからね。もうやばいです。

サム・ライミは今や、「スパイダーマン」三部作の監督というキャリアですから、立派な大物監督。
でも本来はインディーズ寄りの出身で、デビューの「死霊のはらわた」の時点ですでにクレイジーでした。

そのデビューでいきなりホラーの歴史に残る仕事をしてしまったサム・ライミ。そんな彼が帰ってまいりました。
個人的には「死霊のはらわたII」が一番好きで、僕のバイブルのひとつと言えます。

この「スペル」は、撮影準備の途中に「スパイダーマン」の話が来てしまい、中断となった作品。
「スパイダーマン」が一段落したので、"古巣"に戻って好きなことやろうという感じだったのでしょうか。

しかし、いくら「スパイダーマン」をヒットさせたといっても、ここ21世紀に入ってよくもこんな企画が通ったものだなとw
まるっきり80〜90年代のノリです。てかまあ、そこがいいんだけどもwww



銀行で融資担当をしているクリスティンは、ローン支払い延長の相談に来た奇怪な老婆の接客をすることになる。延長がすでに2回も行われていたために断るクリスティン。老婆は抵当の家を取られてしまうということで膝をついて懇願するが、クリスティンが受け入れないために逆上し、あげくに呪いをかけた。



なんなんだこのあらすじは。

要は、支払いの延長を断ったがために、呪いをかけられ、その呪いによってラミアに魂を狙われるというものだが、なんという理不尽な。
ラミアと言えば普通はギリシャ神話に出てくるポセイドンの娘だが、どうももっと邪悪な化身、地獄の死者のような解釈で描かれている。

クリスティン役にアリソン・ローマン。
たぶん誰も知らないと思いますが、僕も知らないなあと思ったのも束の間、顔を見てあっとなった。
「マッチスティック・メン」でニコラス・ケイジの娘役をやってたコじゃないか!!!!!
俄然、スクリーンへの集中度が変わりました。この人すごくいい女優なんですよ。
顔がね、ジョニー・デップそっくりなんです。女なのにですよ。すごいでしょ。


cris.jpg


とにかく、サム・ライミのホラーというものは、あんまり怖がって観るものじゃありません。
いや、意外と怖い時は怖いんですがね、どっちかというと、ニヤニヤしながら観るのが正しいんです。
「んなアホな」というほどくだらない展開とか、変態的カメラワークとか、ヒロインを襲う悪趣味な災難とかねw

「いや、普通なら耐えられないでしょ、気が狂うでしょ」みたいなのが続いたりするわけで、(実際、過去の作品では気が狂うキャラクターもいたw)どう考えてもまじめに作ってるとは思えないというか、絶対ふざけてるだろおまえら的なノリに彩られてるのがサム・ライミ作品の魅力。

だけどこの「スペル」は、ちょっと物足りなかったかな。もっとぶっ飛んでほしかったなあ。
いやまあ、充分変態なんですけどね。なんていうかこう、昔の、もっと観客をバカにしてる感が足りない。いや、バカにしてたわけではないとは思いますけどね。


クリスティンは、明らかに「巻き込まれた」人間なのだけども、特に上に書いたようなあらすじレベルではほんとにただの「とんだ災難」だ。
だけどクリスティンは「巻き込まれた」というよりも、「選ばれた」というのが正しい。「引き寄せた」でも構わない。
クリスティンは登場した時から、好感の持てる白人女性として撮影されてはいるが、脚本レベルではすでに「とんだ呪いをかけられるべき人物」としての描写が始まっている。
通勤の車の中での発音練習.....銀行に入る前にチラリとケーキ屋のウィンドウを見てため息をつく.....
なんでもないようなシークエンスが、後々のクリスティン描写に連鎖していく。


サム・ライミの、特にこういう類の作品でのここまでの人物描写というのは珍しい。

というか、「スパイダーマン」で大成功した男が、わざわざ過去の企画に戻って作るからには、やりたかった理由があるとみていい。
それはこのクリスティンに鍵があるのは間違いない。


クリスティンをポカンとした気分で眺めていると、「悪夢のような災難に見舞われた善良な白人女性」という記号にしか見えないが、ストーリーが進むと実はもっと複雑なのだということが見えてくる。

老婆に支払い延長を相談された時、すぐに上司に「救ってやれないか」と申請するが、「君に任せる」と言われる。
で、クリスティンはどうするかというと、老婆のところに行って「延長は認められません」と断るわけだ。

なぜそうなるかというと、クリスティンは空いている次長のポストという昇進を狙っており、そのために自分のキャリアに対するリスクを回避したということ。

これがクリスティンの過ちであり、悪夢のはじまりなのだが、この時点では観客も「しかしこれだけで呪いをかけられてしまうとは、気の毒だのう」という印象になる。

しかし老婆につきまとわれたあたりから、クリスティンの人間性がいろいろとあらわになってくる。
クリスティンはものすごいコンプレックスの塊であり、過去、生い立ち、家族、様々にいたってイチモツ抱えている。
冒頭のハイウェイでロサンゼルスだということがわかるが、そう、彼女は地方から出てきた農場生まれの田舎娘で、ここでそのコンプレックスと戦っているわけだ。

脚本はサム・ライミが兄のアイヴァンと共に書いている。
ストーリー自体はナニというほどのものではないので、単にサム・ライミはこのクリスティンというコンプレックスを抱えた人物、そして"そのつまづきによる不幸な運命"というプロットをやりたかったのだと思う。

クリスティンに迫る選択はいつも、"自分を優先するか否か"であり、そしてクリスティンは絶えず"自分を優先して"いく。

そして究極の選択として、「呪いを他人に移すか?」というところにまで立たされる。
さすがにそれはクリスティンも悩むのだが、こいつなら渡してもいいという人物を見つけ、渡そうとする。
それは次長のポストを争う、ちょっと嫌味な同僚の男なのだが、またこのキャスティングにアジア系のレジー・リーを持ってきているところもなんかいやらしい。

しかし、クリスティンは良心によって渡せずに終わる。
そこで、さらに最もこの呪いが相応しい相手がいることに気づき、そしてそれへ呪いを渡すことに成功させる。


呪いから解き放たれたクリスティンは、昇進も手に入れ、恋人との旅行へと胸を弾ませて出かけるのだが、恋人との駅での待ち合わせ直前に、試食を勧められるがそれを断り、そしてコートを新調するというシークエンスがある。

彼女のコンプレックスのひとつに、"過去に太っていた"というのがあり、少女時代には肥満コンテストで"Pork Queen(豚肉の女王)"という称号すら得ている。そのために菜食主義で通していたのだが、今回の一連の事件のストレスから、自制を解いてスイーツを食べまくるところまでいく。

しかし呪いから解放された彼女は、またコンプレックスによる自制する自分へと戻り、おしゃれなコートを新調するのだ。


だけど、彼女は結局助からない。そしてそれは、運命だったのだ。


サム・ライミがやりたかったのはこれなのだ。
サム・ライミ作品ってのは、「何も考えてなさそう」に見えて、意外に説教臭いところがある。
作品に広がる湿り気はそのせいで、「何か考えてるかのように見せかけて、実はなにも考えていない」作品ってのはもっとカラッとなる。タランティーノがいい例だわな。

サム・ライミ作品ってのは、運命に翻弄される人、運命と戦う人、というのを描くが、結局運命に勝てないとか、運命とともに生きていくという結末。

「スパイダーマン」を引き受けたのも、そういうことなんかな、とか勘ぐってしまいますが、とにかく、共通しているのは「自己を優先すると罰があたる」というようなことです。

まさしく、そういうオハナシでございました。


さておき、CGなどのデジタルエフェクト全盛の中だというのに、この作品のクリスティン役のアリソン・ローマンはやたらと実物の汚物オブジェクトにまみれます。老婆の吐く得体の知れない液体とか、ウジのまざった腐敗物など、それらが容赦なく彼女の髪を覆い、口の中へ侵入します。

やっぱサム・ライミでした。

ただ一点、とても残念な要素があります。
サム・ライミ作品を観る場合、今か今かと目を皿のようにして待ち受けてしまう、ある要素があるのですが、なかったのです。(たぶん)

それは、ブルース・キャンベルのカメオ出演がなかったということ。がっかりです。
「スパイダーマン」三部作にすら出ていたのに。

「死霊のはらわたII」の彼は必見ですよ。

であであ。



posted by ORICHALCON at 08:42| Comment(0) | TrackBack(0) | Cinema
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