2012年07月11日

崖っぷちの男

新宿バルト9にて、アメイジング・スパイダーマンのあと勢いで鑑賞。
と言っても実は、この作品優先で行ったのだが、やっぱりスパイダーマンも観たくなり、タイムテーブルの都合でスパイダーマンが先になった。

maonaledge.jpg

崖っぷちの男

監督 : アスガー・レス
出演 : サム・ワーシントン  エリザベス・バンクス  ジェイミー・ベル  ジェネシス・ロドリゲス  エド・ハリス

※注意 ネタバレなし

追記 : 最後のコメント欄にネタバレのある内容が追加されました。ご注意下さい。

原題は「MAN ON A LEDGE」。自殺志願者がビルに現れたりした時に、警察用語で使われるらしいです。Ledgeは建物の出っ張り部分とかを指すのでそのまんまですが、僕は原題のままでも良かったかなあと思います。

監督は聞いたこともありませんでした。主演は「アバター」のサム・ワーシントン。個人的には実は、あまり思い入れのない俳優です。なんでだろう。その都度いつも、印象に残りません。ごめんねサム。

まあ、さておき、この「崖っぷちの男」。なかなか面白かった!
そこはかとない物足りなさはあるんですが、それは見終わってからあれこれ考えた結果であって、鑑賞中はずいぶんと引きこまれました。

この作品は現在、封切りしたばかりなので、ネタばれのない程度にレビューしたいと思います。

主人公のニックは元警官で、しかも25年の実刑を受けた服役囚。それがいきなりNYのマンハッタンにあるホテルの壁際に立つという話なんですが、そう、脱獄囚なのです。彼が目論んでいるのは自分の無実の証明。今にも飛び降り自殺しそうなニックの出現に、下の道路はパニックになります。警察が出動し、道路は封鎖、集まるやじうまとTV局。
そんな行動でどうやって無実をはらすというのか。味方はたった二人。しかもこの二人、特殊な能力があるとかではなく普通の一般人なため、成功するのかどうか、いやでもハラハラさせられます。

この作品を観ようと思ったのは、エド・ハリスが出ていたから。すんごく大好きな俳優です。
ただ、この作品の物足りなさには、エド・ハリスの扱い方にも原因があります。

この企画は実現するのに10年かかったそうです。まあ、ハリウッドでは珍しいことではないんですが、それだけ時間があったのなら、脚本の構成にもっと工夫の余地があったんじゃないかなーとは思います。

今からちょっとアラつつきみたいなこと書きますが、基本的におすすめの作品ですので、偏見なしに読んで下さい。

この作品は、脚本における、いわばシド・フィールド・メソッドで言うところの"ミッドポイント"と呼ばれる折り返し地点がないのが問題かもしれない。
これはどういうことかというと、専門的になりすぎてもあれなので、簡単に説明してしまうと、観客が「さあこれからどうなる」と改めて期待がよせられるポイントのこと。これだけのサスペンスでありながら、このミッドポイントが薄い、もしくは深すぎる(遅すぎる)。
人々の評価が高い作品というのは、大体このミッドポイントがちょうど上映時間の中間点にきていることが多い。

シド・フィールドはあるシナリオ構成メソッドの提唱者で、アメリカではかなり支持されている。ハリウッド作品、特にヒット作やオスカー作品を分析すると、ほぼこのメソッド通りに書かれているのがわかる。
ただ、盲信すぎるのも問題で、脚本の世界とはもっと柔軟だと僕は思っている。しかし、決まった尺内にうまく物語を構成するという技術を体系化したという意味では、これの右に出るものはないなと確信します。

で、このミッドポイントというのは、観客がさらに物語に引き寄せられ、注意力の持続を維持させる働きがあり、また、ミッドポイントはクライマックスにほぼ必ず(関節的にせよ)関与する。によって、場合によってはクライマックスを引き立たせる役割も併せ持つ。

ミッドポイントの例を挙げれば、そうだな〜・・・誰もが観てそうな映画をあげるなら・・・そうだ、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」でいこう。
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のミッドポイントは、30年前にタイムスリップしたマーティーが、「母親と出くわしてしまい、母親の初恋の人になってしまう」ところだ。これによって、このままではマーティーの存在が消えてしまう(マーティーが生まれる未来が来ない)・・・というのが新しいプロットとして加わり、ただ単に未来に戻るだけではない目的が生まれる。

で、この「崖っぷちの男」は、あまりミッドポイントなどという手法は意識していないように見えるが、それっぽいものがまったくないわけではない。しかしどれもパンチ力不足でミッドポイントの役割には程遠い。ともかくミッドポイントというものを強く意識してないにしても、どうしても物語を構築していく以上、そういう性質に近いポイントというものが用意される。それがクライマックスのちょい手前にあるのだ。
ネタばれさせないと言ったので、それがなにかはここでは書かないけれども、観客が「うわー、これからどうなるんだろう」と思った頃には、上映時間がほぼ消費されており、クライマックスも駆け足でやってくるため、「あ、もう終わったか」という感じになる。

また、エド・ハリスは主人公の敵役で、いわば悪の黒幕なのだが、この彼があまりなにもしないし、ほぼなにも機能しない。ストーリーを作らないのだ。彼は主人公を陥れた張本人だが、それは過去のことであって劇中でもそのプロットは描かれない。こういった理由で、人間vs人間という、こういう類のサスペンスに重要なエッセンスが希薄になってしまっている。

言うのは簡単なのだが、あえて言わせてもらうと、ミッドポイントとなり得る部分(あるひとつの目的が果たされた時)をもっと早めに持ってきて、ミッドポイント以降にエド・ハリスやその仲間との攻防(それは心理戦でもなんでもいい)を盛り込むべきだったと思う。
つまり、手強い相手の、その手強さが描かれておらず、それと対峙する主人公たちという旨みが盛り込まれていない。巧妙に陥れられ、25年の実刑を受けた主人公だが、もう一度その巧妙さと戦うプロットにしたら、この上ないサスペンスになっていただろう。



なんか、言いたいことを書いてしまったが、これは「欲を言うなら」であって、結果的には楽しんで観たことは強調しておきます。
だからここからは少し良かったことも書こうw


主人公のニックはホテルの壁から動けないので、この領域はある意味、"静"の部分。対して、他で彼の指示のもとに動く"動"の領域があって、この構成はとても面白かった。さらにニックは警官やニューヨーク市民に囲まれており、TVカメラが向けられているため、彼はその状況を生かしたいろいろな作戦を展開するのも見所だ。

ニューヨーカーたちについては、ややステレオタイプな感じがしたけど、こういうムードや演出はロスとかが舞台じゃ、やはり作れないわな!

俳優陣についてはあまり印象に残らなかったのだが、注目はジェネシス・ロドリゲス。これだけ美人でセクシーな上、あれだけ活躍するおいしい役どころなら、間違いなく次回作のオファーがかなり来ているはず。「トータル・リコール」でシャロン・ストーンを見た時に感じたような予感がします。もしかしたらブレイクするんじゃないかな。

あと、心憎い役どころでビル・サドラーが出てくる! これに気づいた人は、「まさか・・・」となるかもですが、最後はまさにその「まさか」にびっくりしますよ。
「ダイ・ハード2」では引き締まった悪役を演じてましたが・・・・やはり老けましたねえ。最後に見たのは「ミスト」だったなあ。


まあ、なにより30cmもないようなビルの出っ張りに立ちっぱなしというシチュエーション。絵も圧巻です。劇伴もよかったし、男一人で観てもよし、カップルで観ても良しの娯楽サスペンスですよ。ただし、高所恐怖症の人はご注意。





posted by ORICHALCON at 15:30| Comment(9) | TrackBack(0) | Cinema
この記事へのコメント
勉強になるわ〜!いやほんとに…。
今後も楽しみにしてま〜す!
Posted by なおみ at 2012年07月11日 16:03
コメントありがとう( ´ ▽ ` )ノ
かなり適当だからそのつもりでよろしくねw
Posted by ORICHALCON at 2012年07月11日 17:45
私も勉強になりました。今シナリオの勉強しています。シドフィールドも読んでいます。質問なのですが参考までにあなたがこの映画でMPとなりえるとしている、あるひとつの目的が果たされた時、とはどこをさしていますでしょうか? 面倒な質問でしたらすみません。。。
ちなみに私はこの映画を見ました。
Posted by みんみん at 2012年07月12日 17:55
コメントありがとうございます!
えっと、僕は脚本の専門家とかではないので、個人的な意見としての参考程度にしてくださいw

(注 ここからネタバレになります)

エントリではネタばれさせないつもりだったので、核心的なことが書けずにいましたが、みんみんさんは映画をご覧になってるということで、がんがん書きましょう。

ニックの弟とその恋人が、イングランダーの金庫破りに成功するが、「肝心のダイヤがない」というところです。

ここをミッドポイントに据えるという試練にチャレンジできたなら、この作品はもっと大化けしていたでしょう。

結局、この作品は金庫破りに時間をほとんどを割いてしまっているのがもったいないのです。金庫破り自体は、ハラハラドキドキしますが、ドラマではありません。ニック側の一方的な攻撃であって、敵もこれらを阻止するという行動をしません(知らないわけですから)。

おかげで、敵対するキャラクターたちが本当に動き出すタイミングというのが奥になってしまい、クライマックスパートになってあわてて行動します。それも、知恵も技術も駆使せず、単に銃を向けるというようなかたちになってしまっています。

ダイヤがなかった!!というのはこれ、明らかにシナリオ術ではミッドポイント要素です。しかし奥に置いていて時間がないため、そのあとすぐ弟チームはいとも簡単にダイヤを手に入れてしまいます。

本来、ミッドポイントは新たな目的とストーリーを追加させることによって、物語に波を立たせ、その波にキャラクターや観客をのっけるものです。実際、「ダイヤがない!」という時点で観客は「どうなる?」と思いますが、すぐクライマックスパートに突入するために、用意されていたキャラクターがあまり機能できなくなっています。

ニックが交渉人として指名した女刑事のリディアも、クライマックスパートの中で慌ただしく内務調査室へ電話するはめになり、黒幕のイングランダーは、ただダイヤの運び役になってしまっています。
この慌ただしさの中、脚本はニックがダイヤを奪い返すまでに発生する困難を3回も銃で解決してしまっています。(さらに、肝心なニックにはあまり困難を解決させていません。最後のジャンプ以外)

もし「ダイヤがない!」というのをもう少し早めのミッドポイントとして機能させるなら、その後のシークエンスをもっと練らければならないので、簡単な話ではないのですが、ダイヤが外に出て初めて、イングランダーを本格的に機能させることができますし、イングランダーが動けば、ニックはもっとピンチにならなくてはなりません。
そこでやっと、女刑事のリディアや、もしかするとエド・ハーディ演ずるリディアの同僚刑事などももっと使えたかも知れませんし、ニックの同僚の黒人刑事、アッカーマンにしてもそうです。

要は一言で言えば、「もったいない」気がしたということです。

エントリにも書きましたが、これはあくまでも「欲を言うなら」ということなんですがね!w
ただ、「ダイヤがない!」は明らかにミッドポイント要素になってしまっているので、位置に問題があるとは確信しています。


劇中、ニックの印象的なセリフで、「俺をあきらめるな」というのがあります。女刑事に言うセリフです。
「崖っぷちでもあきらめない」キャラクターたちと、「あきらめさせよう」とするキャラクターたちの攻防が頂点に達したのであれば、ニックのあの最後のダイブはもっと名シーンになったでしょう。


こんなかんじですが、いかがでしょうかね?w

Posted by ORICHALCON at 2012年07月12日 18:46
ありがとうございます。
なるほどよくわかりました。自分でも納得ゆきました。ごもっともだと思いました。私もよくできた映画だと思ってましたが最後のほうがもっと面白くなるはずと思っていたんです。
これからも楽しみにしております。また質問とかするかも知れません。。。がよろしくお願いします。
Posted by みんみん at 2012年07月12日 21:44
観て来た!私大好き、ああ、好き、この映画…。
ミッドポイントについて、便乗して私も本当に勉強させてもらっちゃいました。
ありがとう〜。いいのかしら、無料でこんな…。
なるほどなるほど…。
金庫破りはドラマじゃないんだね。そうか、そうだよね…。
最後の「まさか」びびびびびっくり!
あの瞬間に大好き映画になった。
あのさ、冒頭の神父さんも彼だった…?
Posted by なおみ at 2012年07月22日 05:21
お、観たの?? ほお!w

まあ、娯楽サスペンスだから、無理にドラマドラマしなくてもいいんだけどね。

テーマは結局「家族」というところへ落としているので(最後にプロポーズであの女性も家族なるわけだし)、そう考えると金庫破りのパートでの弟の描き方がもっとあったろうと思うのね。

そしたら「家族愛」というところまでいけたでしょうしね。

で・・・神父さんってなに?? いたっけそんなのw
Posted by ORICHALCON at 2012年07月23日 07:59
ああ!確かに、『家族愛』いけたね!
そしたら『金庫破り』もドラマになり得ると…。成程…。

神父さんの件、冒頭の父のお葬式にいた神父さんがサドラーだったっていう噂を聞いたの。

全然覚えてないんだけど、もしそうだったら最高に人を馬鹿にしてるよねぇ☆(勿論ほめ言葉)
Posted by なおみ at 2012年07月27日 00:08
ええ? それは....ないんじゃないかなあw
僕だってあそこの神父の顔なんていちいち覚えてないよw

でも、ちゃんと映ってる上でそれがサドラーだったなら、さすがに僕は気づくよ。ていうか、特にアメリカ人からしたら、別に無名俳優ではないので、わかる人多いと思うよ。

葬式に父が居合わせていた、というのは確かに面白いけど、それやっちゃったら、後のルームサービスで出てくるわけだから、バレバレじゃないのw
「あれ、このルームサービス、さっきの神父だ」ってw

それとわからないように神父役をやっていた(つまり、楽屋的なお遊び要素)というんなら、あったのかも知れないけどねえ....
Posted by ORICHALCON at 2012年07月27日 00:41
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/56991643

この記事へのトラックバック