そもそも、軍事作戦に「正しい」も「正しくない」もなく、ある視点からは正しく、ある視点からは正しくないものだったりしますが、今回の作戦は、「いきなり殺しちゃった」という点で物議をかもしています。
ハナから「殺害するため」の作戦であり、拘束とか逮捕などは考えてなかったという点で、「それはいかがなものか」と、民主党の福島瑞穂議員も「裁判にかけるべきであった。事実を世界中が知りたがっていたはずだ」というような旨の発言をしてたりする。
この「事実」というのは、もしかしたらあの「9・11」の真相うんぬんにまで及ぶ話なのかも知れない。
ご存知の人もいるかと思いますが、あの事件にはいろいろと疑惑があって、中にはアメリカの自作自演による「イラク進攻の理由づくり」みたいなのまである。
この「9・11」の疑惑材料までからめていたら話が終わらないので、少なくともここではアメリカ政府の「ビン・ラディン主導によるテロである」という見解を支持したとして、話をすすめよう。実はビン・ラディンはシロで、アメリカは彼を利用して、口封じに斬り捨て御免したんだ、なんて話まで混ぜてるともう、収拾がつかんからな・・・・その点、ご了承いただきたい。
まず結論からいうと、アメリカのやり方は正しい。正しい、というのも変だが、言い換えれば「当然」ということ。
アメリカがビン・ラディンをとっつかまえて裁判にかけるつもりなど微塵もなかったとしたら、それは当たり前の話で、これは「テロ」というもののメカニズムと、「対テロ戦争」というものがどういうものかを理解していれば、ある程度納得出来るものだ。
テロをいわば国際的な刑事事件・犯罪ととらえるか、戦争ととらえるか、という問題の場合、これは「戦争」として扱うのが理想といえる。
「戦争とは大げさな」という人もいるかも知れないけど、テロ行為を犯罪、テロリストを犯罪者として扱うことは、テロリストの思うつぼなのだ。彼らに裁判を受ける権利を与える時点で、半分負けているに等しく、テロによる犠牲者も減らせない。
だからアメリカはビン・ラディンに対してはすべて軍事行動であって、つまりこの事象の取り扱いを「戦争」と定義付けようと必死だったわけだ。
テロリストというと、AK-47や手榴弾を手に、無精ひげと汗にまみれて、なにかひとつの思想に凝り固まって、なにかとあればすぐ自爆し、ネズミのように必死に這い回っているかのような印象を持ってる人もいるかも知れないが、テロリストの、特に幹部や指導者というものは(時としては実行犯でさえも)過去の歴代の人物を並べてみると、ほとんどが高学歴で、エリート層、さらには裕福層の人間であることがわかる。
僕らが想像する以上にテロリストは頭が良く、教養深く、さまざまな知識を持っていて、コネもカリスマもあるような人物が中心となっており、その頭脳は恐ろしく狡猾で、非情だ。
そもそもテロ行為は法律(国際法も含む)逆手に取るところから設計がはじまっている。
だから「裁判にかけるべきだ」というのは、むしろテロリストの肩代わりに発言してあげているにすぎなくなってしまう。
戦争という扱いになると、逆にテロリストたちは困ってしまう。ハーグ陸戦条約が適用されるからだ。
これはなにかというと、「戦争のためのルール」で、おかしな話、世界中で行われている紛争・戦争は、このルールにのっとって行われている。そして、このハーグ陸戦条約にあてはめると、テロリストの行為はすべて「違法」ということになり、こうなると彼らの権利は失われる。つまり、彼らは裁判を受ける権利などはないということになる。
対テロ戦は、こういうところからも展開されることを知っておく必要がある。
テロの厄介なところは、その破壊・殺戮行為は時として戦争並であるのに対し、まったくルールがないということだ。犯罪的なのだから当たり前とも言えるが、このルール無用は僕らの想像を絶する。まずわかりやすいのが、平気で嘘をつくというのがある。
過去の歴史を振り返っても、テロリストの発言のほとんどは嘘ばかりで、それこそ嘘しか言っていない場面さえある。テロとはそもそも、プロバカンダの手法であるということからして、彼らの発言がいつも正しいわけではないのはわかるだろう。
もちろん、アメリカ政府なども本当のことばかり言うわけではないし、隠蔽も、嘘による工作もする。
だからアメリカ政府に対して疑念を持つ人、または後に暴かれた隠蔽行為などを非難する人もいる。
しかし、テロリストに対してはどうだろう? 意外と疑念を持つ発言や考えはあまり聞かれない。
「我々は被害者だ。アメリカは我が地の女・子どもを無作為に殺害した」などと言うと、「ああアメリカそういうことしたのか」と思っちゃったりする。
テロリストはたしかに問題だが、彼らは思想や権利を守るために犯罪者となってしまったのであり、言いたいこともあるだろう・・・というような視点で見てしまったりという人もいるだろう。下手すると、宗教的思想者というレッテルから、そういうことにかぎっては「とんでもない嘘は言わない」とさえ漠然と思ってる人もいるかも知れない。
しかし残念ながら、ないことをあったかのように当然と言う、というのがテロの常套行為で、彼らの発言はまず、信じてはいけない。
「女・子どもを殺した」といった内容も、実際は彼らが女・子どもを利用したがために犠牲になっているケースも多い。(彼らにハーグ陸戦条約はないに等しい)
もちろん、アメリカが間違って爆撃しちゃって殺しちゃったなんてのもたしかに存在するだろう。
しかしテロリストはそういうのをむしろ待ち望んでいるようなアタマをしているということを忘れてはいけない。自国民の少年を人間爆弾に仕立て上げることのできるアタマであるということを忘れてはいけない。
テロリストが、自己以外の味方になったことなどなく、自己以外のなにかのために戦ったり死んだりした例もない。
テロとの戦いが泥沼に陥る原因として、テロリスト側が圧倒的に有利な立場にある、というのがある。
テロリストが弱者ゆえの反抗のように思っている人は、考えを改めた方がいい。それは彼らの演出にうまくのっけられてるにすぎない。
まずテロは、投下する資金・人的資源・時間の割に、あまりにも効率がよく、ちょっとした作戦で大きな効果が得られるというのがある。
戦争という定義にのっとったものであれば、相手国の軍隊と戦わなければならないので、こっちも正規軍である必要があり、そのための資金と人員は相当なものなる。また、先の条約にも縛られるし、下手すると一国相手ではなく、連合軍が相手になる可能性だってなくはない。
しかし転じてテロ作戦となると、数万円分のC4爆弾と、一人の英雄がいればいいわけで、それを町の広場でドカンとやって数百人殺せば、成功である。
彼らにとって、一人の盲信的な兵隊を作るのは簡単なことである。これは映画「シリアナ」などにも描かれているが、実に悲惨なやり方だ。
数百人の民間人を殺してなにが成功かというと、テロは物理的破壊戦ではなく、心理戦だということで、自爆もいとわない戦士が敵にはおり、宣戦布告もなしに不意にいつどこで誰がやられるかもわからない、という恐怖を相手に植えつけるという、実に効率のいいやり方をしているわけだ。
9・11も、3000人近い犠牲者を出しながらも、テロリスト側の損失は逮捕者も含めて12、3人。
9・11は世界中でこれでもかというくらい報道されたが、テロは少ないエネルギー効率で、絶大な宣伝力を持つのも大きな特徴だ。
一機の旅客機や大使館を、数個の武器と数人とで乗っ取れば、それが乗っ取られている数十時間、もしくは数日間は、彼らを主役にした報道が繰り返しされる。彼らはタダで、世界中のメディアをつかって自分の思想や主義主張を宣伝でき、いろいろな要求も可能だ。そしてなによりもその時間の間、ずっと敵の顔に泥を塗ることができる。
頃合いを見て降伏すればいいと考えていたならば、これほど頭の良いやり方はない。これがテロなわけだ。
それで逮捕されたとしても、彼らは味方からは英雄扱いとなるわけで(これは死んでもそうだが)、裁判時にまた法廷で宣伝行為ができる。
最悪は、またその英雄を解放させるためにまたテロが起きたりすることだ。
対テロ戦の鍵は、「テロ行為は非効率である」という状態にもっていく、まずはこれに尽きる。テロがなくならないのは、「効率が良い」からなのだということを、僕らは知っておかなければならない。
心理戦、法規戦ということを考えると、彼らをただの犯罪者とするのではなく、交戦権失効(捕虜・裁判としての権利なし)の敵として扱い、彼らの主義主張の喧伝の助長になってしまう行為も極力控える、ということになる。
そう考えると、今回のアメリカのビン・ラディン殺害作戦は、「対テロ戦としてあたりまえ」のことをやっているにすぎないということがわかっていただけるだろうか。
しかし、これでまた報復という名のテロが繰り返されるのではないか、という懸念もあって、「それでは泥仕合じゃないか」と誰もが思うだろう。
もしあなたがそう思うなら、すでにテロリストの勝ちということになる。もし世界中がそういう気持ちに支配されたなら、テロリストたちのこれまでの行為がすべて、ただ、報われるだけだ。テロとは、そういうものだ。
そもそも、テロを招くような政治的行為をしているアメリカにも非があるという声もあるだろう。
だけど、テロはテロであり、そこにはどんな言い分も認められない。
それでももし、今回のビン・ラディン殺害などに対し、人道的、もしくは政治的などのあらゆるどんな視点にせよ反感を感じているのであれば、それは僕から言わせれば、家族や知人がテロの犠牲になった立場に置かれていない、という幸せをただ噛み締めているにすぎないに等しい。
2011年05月09日
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