サバイバル・オブ・ザ・デッドを観てきてしまいました。
知らない人は知らない、ジョージ・A ・ロメロの作品です。
ロメロは、僕にとってとても大きい存在で、小学生の時に観た、ゾンビ映画の金字塔「Dawn Of The Dead」(邦題 ゾンビ)のあまりの強烈さに、すっかりゾンビの虜になってしまった。
少なくともこの「Dawn Of The Dead」は、ビデオで100回以上は観ただろう。ビデオテープがすり切れても、セロテープでつなぎあわせて見続けた。
当時のビデオソフトはあまりにも高価だったので、ちょっとこういう強引な手を使ってでも生かすのだ。おかげでデッキ側の再生ヘッドがやられてしまったがw
ゾンビ映画は腐るほどあるが、原点はやっぱりロメロである。
「Night Of The Living Dead (1968)」、「Dawn Of The Dead(1979)」、「Day Of The Dead(1985)」この三つをロメロのゾンビ三部作と呼んでいた。
「Night Of The Living Dead」のオマージュとして、「エイリアン」の脚本家、ダン・オバノンの脚本・監督で「バタリアン(1985)」が作られている。
ゾンビものが大衆メジャーな時期というのはそれくらいまでで、やがてSFホラーの台頭でゾンビものは下火になっていく。
そんなゾンビカルチャーを再び呼び覚ましたのが、カプコンの「バイオハザード」だった。「バイオハザード」は明らかにロメロ作品に影響を受けている。
今の若い世代にとって、ゾンビとは、映画よりもゲームのキャラクターとしての印象が先行しているだろう。
おかげでまたゾンビという存在がメジャー化して、「バイオハザード」の映画化や、「Dawn Of The Dead」がリメイクされたり、「28日後」「28週後」などのニュージェネレーション・ゾンビが生まれ、またロメロも長い沈黙を破って「Land Of The Dead」を製作するに至る。
その「Land Of The Dead」を皮切りに「Dialy Of The Dead」、そして今回の「Survival Of THe Dead」と立て続けに製作したロメロなのですが、ロメロのゾンビは「死人が人を襲う」という概念が色濃いゾンビなので、走ったりしない。
新しいゾンビ映画では、「28週後」があまりにも素晴らしい出来で、今のところこれを超える作品は見当たらないのだけど、この作品のゾンビは走る。それは彼らが「死人」ではなく、単に「感染者」だからだ。
だから、ゾンビと呼んでいいのかわからないのだけどねw
さて、前置きが長くなっていますが、この「サバイバル・オブ・ザ・デッド」。とりたてて傑作というわけでもなく、非常に地味な作品として仕上がってるのですが、ロメロがどうしても「やりたかったテーマ」がここにきてやっと具現化したという感じです。
というのも、ゾンビ三部作の3本目「Day Of The Dead」のとき、イタリア資本側のダリオ・アルジェントがUSドル高騰の都合で降りたため、作品の内容を極端に縮小しなければならなくなり、用意していた脚本がいわば棚上げになっている。
そして今回の「サバイバル・オブ〜」は、その棚上げになったオリジナル脚本に近い内容なのだ。
走り、力も強いニュージェネレーション・ゾンビに慣れてる人たちにとっては、ロメロのゾンビはちっとも怖くないだろう。ロメロのゾンビは皆、うつろでのろまでもろい。死体だからだ。
ロメロ作品の恐怖性は、そのゾンビと向き合う人々にある。死人が人を襲うクレイジーな世界における、さらにクレイジーな人たちを描く、というのがロメロだ。
劇中の人々の、ゾンビの扱いはあまりにもひどい。ゾンビよりも恐ろしい。むしろゾンビに同情する。そのパフォーマンスのおかげで、ロメロ作品初のR-18指定になっている。
そもそも、ロメロのゾンビの起源となっているブードゥー・ゾンビは、人間によって生成され、支配された奴隷なわけで、そういう意味では本当に残酷なのは人間側だ。そこにロメロは「アイ・アム・レジェンド」の原作の要素(感染する)を加えて、ゾンビの逆襲劇を作ったような感じだろうか。
ロメロ作品の特徴は、「人間vsゾンビ」はほとんど描かないところだ。それらは単なるお遊び要素にすぎない。メインプロットはいつでも、「人間vs人間」である。
今回の「サバイバル・オブ〜」はまさに「それ」で、非常にウェットな小戦争がベースになっている。
ロメロは舞台を現代的な都会ではなく、「どこかの小さな島」の「保守的で封建的な社会」に移すことによって、この戦争を泥臭いものとして描くのに成功している。
この社会はまるでアーミッシュのような生活をしており、主な移動手段は馬である。男たちの腰にはシングル・アクション・アーミーがぶら下がっており、カウボーイハットのひさしの下から、陰湿な目をよこす。
ちなみに前作の「ダイアリー・オブ・ザ・デッド」にも、アーミッシュの老人が印象深いキャラクターで登場する。
最近のゾンビ映画が、派手な現代兵器によって始末されていくのとは逆に、ロメロはどうにか主人公たちを都会やモダン社会より孤立させ、アナクロな戦いへ持っていきたがる。そしてそれらは時折、観ている僕らを笑わせてくれる。「ここは笑っていいところなのだろうか?」と迷う場面もあるけど、きっと、笑っていいんだと思う。その証拠に僕らが笑ったあとは、登場人物も楽しそうなのである。特に今回は、ダイナマイトのシークエンスが痛快だったw
このアナクロ世界への招待は、きっと「予算」の関係もあるんだろうけど、僕は好きだね。
「アイ・アム・レジェンド」は現代のNYで映画化されていたけど、ああいうのは予算がかかるでしょうw
この、孤立したアナクロ空間を舞台にする、というのは、たとえば横溝正史の恐怖推理ものの手法とおんなじで、事件は都会ではないところで発生する。要はそういうホラーなわけだ。
とにかくロメロはハリウッド体質をとても嫌う「B級好き」なので、そういうのが肌にあう人には、おすすめします。
キング・オブ・モンスターというと、よく「ゴジラ」ヤ「キングコング」があげられたりするけど、僕にとってのキング・オブ・モンスターは、ゾンビだね。
ゾンビというモンスターの素晴らしさは、なによりも「人間の尊重」を踏みにじるところだ。こんなに恐ろしいモンスター、ほかにあるだろうか?
2010年06月22日
サバイバル・オブ・ザ・デッド
posted by ORICHALCON at 21:10
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